島を渡る

先日「知らないことあるんですか?」と問われて、あるに決まってるのにすぐ答えられなかったことがなんだか忘れられない。おれは何を知っていて、何を知らないのだろう。これまで何を知ってきて、これから何を知っていくんだろう。事実という言葉と、真実という言葉がある。おれが知っているのは、おれが使いこなせていると信じている言葉で、おれが知覚できていると信じている感覚、おれが表すことのできていると信じている事実、そしてそこにあった言葉にできない感情だけだ。永遠があった気がするし、ぜんぶ忘れているのかもしれない。形のあるものも無いものも、そんなに違いはない。消えないものに執着しているのに、消えてしまうものに永遠を見出そうとする気持ちもある。おれと世界が分断される。廃墟の上に立っているような錯覚、過ぎていく透明な風がなでる輪郭と輪郭の境界、夜と朝、朝と昼、昼と夜の入れ替わる一瞬にブルースを感じる。魂ってあると思う?おれはあると思う。おれがあると思うってことは、おれの方にはあるんだ。そっちはどう?そうやって島を渡って、また新しい世界がある。だからあなたの醜さに慄いたりしない。おれが知らないものは、今おれが決める。きっと、それは美しさに近いものだ。