下着を履かないで寝る男の話を聞いた。肉体の外側にまとわりつくぬるさが気持ち悪いから服を脱いで眠る。皮も剥ぎたいし魂に氷を当てたい。人の匂いが無理、宙に浮くような話が欲しい、泳ぐように生きたいのにとおに川底に身を横たえている。泥が舞う、息が苦しい。元気がない。心配してくれ。
スプモーニと夏
顔を上げると紫の雲が空にその色を滲ませていた、自分の作った曲を聴きながら作った時のことを思い出していた。爛れた僕らは白痴のまま世界が終わっても、それでいいんだよ。君の愛の色は強い赤。熱くて眩しいそれは、ぼくが飲み干すには祝祭的すぎた。近くにいるのに、触れているのに並び立つ平行線、君の世界を愛するフリをすることで、ぼくはぼくじゃない立派な人間になれる気がしたんだ。
カーテンから差し込む光の色を今でも覚えている、立てかけられたムーのキャップも。爆炎みたいだ、まるで彩度に欠ける感謝祭。感傷がガラスの破片のように散り、刺さり、透明な血が出るけどそれはテキストに起こすだけ起こして、あとはさかなのように生きなくちゃ。ぼくら生きていたいのだけはお揃いだったよね。
フロア
言葉を取り戻さなきゃならない、ぼくの心から発せられる日本語ではない日本語、色と味と感触を言の葉に乗せに見える形にする、心に近い言葉とぼくはいつそれを呼んでいただろう。透明になる瞬間と言い換えてもいい。論理的だなんだという文脈からは遠く離れ、それでも一定の規範に沿って動く感情の大蛇。人は生きている。人は生きていく。人は、ではない、ぼくが、だ。音楽。音楽を取り戻そう。ぼくが生きた日々を取り戻そう。君が笑って生きる意味が汚れた、この言葉が浮かんだ時、音楽を出来ていると思えた。それはもう5年も前の話。海へ潜る。息をするように息を止め、誰もいない深海へ赴く。君のことは好きだけど、そんなに好き過ぎない。ああ、肉体が、魂が、すっかり癒着してしまった。ずっと剥がれかけでいたかった、それが贖罪になるような気さえしていたから。そんなことはないってもう知っているから。あとは身体検査です、息を止めて、めいっぱい大切なフリをして、踊り明かす。
春の死体
眠すぎて毎日吐き気と一緒に暮らしてる、風はぬるすぎて春を飛び越して 夏の匂いさえよぎるよ。
晴れの日には雨を求め、雨の日には晴れを求め、満たない器を抱えたぼくのカルマは二酸化炭素になって青に溶ける。感傷の残響、感動、ノー残業 今日。
時の流れさえ見える気がする、日々が遅すぎて。
遠くにあるのに忘れないから近い気がするんだ、近くにあるのに触れないから熱が出たりするんだ。
一生知れないもの、君の爪の味、人を殺す時の感触、ぼくが死んだ後の世界。あってもなくてもいいもの、だれかが決めたこと。なにかの始まりとなにかの終わり。
ぼくしか知れないもの、発しなかった言葉、作らなかった歌、あの日の君の輪郭。あってもなくてもいいもの、ぼくだけ決めたこと。世界に1つだけしかない夜。
余計なものは全部余計なまま、全部をないまぜにして、始まりと別れの季節に呑まれる。
ミッドナイト
夜はなんにもなくたってカナシミが寄り添ってくることがあるけど、それで自分は自分なんだと思って安心することもある。友達が「可哀想って思われるのがどうしようもなく嫌だ」と言っているのを聞いて、自分はどうだったろうと思い出した。ぼくは可哀想だと思って欲しかった。こんなにマトモじゃないのに、ちゃんと学校に行けて、ちゃんと卒業して、ちゃんと就職して、友達も居て趣味もあって生活が出来ていて。誰か可哀想だって知ってよ。どうしようもなく染み付いて取れない悲しみとか、剥がれない暗黒とか、流れ込んでくる夜とか、生臭い醜さを抱えて生きていくしかないことを、その絶望を、誰か知っていてよ。そう思って生きていた。「病名でもついたらいじめられないし、もう少しは楽なのかな」andymoriが歌うそんな詞に、2cmくらい救われたりした。むかし付き合っていた女の子は「可哀想だと言われたら、自分がいま可哀想なんだと知ってしまうから、言わないでいて欲しい」と言っていた。色んな人がいるなあ。色んな人がいるねえ。