有無

境目はよい、器から水が溢れるその一瞬、夜が朝に代わるその一瞬、形のないものに輪郭が生まれる、形のあるぼくらに居場所がなくなる。何度も宙に浮いて身体から線が無くなる瞬間を知ってきた、あれは透明になることに似ている。あの人が京都へひとり旅行へ行った時に透明になったと言うので、京都という街にはそういうイメージがある。去年の今頃、鴨川が見える公園でひとりギターを弾いた。あの時に作った曲はなんとまだ完成していない。自分を大切にするとかしないとか、こういうところがぼくがぼくを消費している所以だ。いま電車に乗るために走った、空を見上げた、黒が黒を塗り潰す真っ当な黒だった。誰のことも傷付けたくないと強く思い出す、加算を無視するならその方法は無になることに他ならないと思うけど、ぼくが死んだら傷付いてくれる誰かが居てくれるようになった。生きているということ。幅が触れているということ。世界の輪郭線を揺らすということだ。生きるをさせてくれてみんな本当にありがとう、いつでも殺してくれ。