読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

小雨が燦々と降る夜はエモい

わかってもらえなくてもいい 日々の記録

ヒカリエ

日々と思考

3/18。人生で初めて自分で曲を作って、自分でメンバーを集めて組んだバンドの、最後のライブが終わった。自分でメンバーを集めて、とは言ったものの、思い返すとほとんど偶然のような形で、いつの間にか何となく決まっていた。
音楽なんて聴かないし、ましてや自分でやるなんて到底無理だと思っていた頃、売れてるバンドが「バンドは奇跡」だとか言っているのを何かで見た。当時はただの別世界の、成功者の戯言だと思っていたけれど、今は少しわかるような気がする。収まるべきところに収まるようにバンドが組まれ、そのメンバーじゃなきゃ作られなかっただろう曲が出来、普通に暮らしていたら何の接点も無かったかも知れない人達の前で披露される。運命だとか奇跡だとか、強すぎて匂いがきつい言葉でたびたび表されるのも仕方がないと思うし、暮らしの中でそういう言葉に非常に近いところにある、数少ない場のひとつかも知れない。
ある事柄や人が自分の人生に密接すぎた時に、ぼくは「出会えてよかった」とかは逆に思わない。どちらかというと「出会うに決まっていた」という感覚を想う。色々あったと言えるほど色々無かったし、何も無かったというには何かが有ったし、目に見えるような大きな成果が残ったバンドではなかったけれど、このバンドが無い人生は、おれにはあり得なかった。有難う、と思う。もしこうなることが決まっていたとしても、それでも、有難う、と思う。有難い。こんな素敵なことは、有るのが難しい。
 
需要の無い悲しみについて。みんなわかりやすい悲しみが好きだ、と思う。例えば、物凄く好きだったのに振られた、とか、大好きな家族が亡くなった、だとか。でも世にある悲しみの多くがわかりやすいかというと、そんなことは無いと思う。物凄く好きだったけど、価値観は合わないなと正直思っていたかも知れないし、将来を考えると恋人の収入には大きな不安があったかも知れない。大好きだったけど介護が大変だった家族が亡くなって、本当に悲しいけれど内心ホッとしているかも知れない。そんなわかりにくい悲しみには、需要が無い。みんなドラマを求めている。笑って泣けて怒って共感できるドラマを求めている。
ぼくが抱えていた悲しみには、需要が無かった。倫理問題、責任問題、誰が良くて誰が悪い。誰に悲しむ権利があって、誰に責める権利がある。そんなことはわかるし、そしてわからなくて、ただそこに、悲しい苦しいつらい痛い、なんかもうぜんぜん生きていける気がしない。そういう気持ちがあることは確かで、そしてそんなことには誰も興味が無かった
良い曲を作りたいという気持ちは少なからずあった。でもそれ以上にぼくは、この気持ちをどこかに吐き出さなくては頭と心と身体がパンクしてしまう、その一心で、この気持ちを、出来るだけそのままの感触で形に残すことを目指し、言葉と感性を尽くした。
だから作曲が楽しいと思ったことなど、一度も無かった。ギターを抱えて、感覚を研ぎ澄ますフリをし、この気持ちにはこのメロディ、この気持ちにはこの速さ、リズム、フレーズだと、何度も何度も弾いて、歌って、叫んで、録音し、試した。
音楽的には、拙い曲ばかりだったと思う。言いたいこと、歌いたいこと。ですら無かった。誰にも見せられない日記の出来損ないのような、ひとりごとのような歌詞を乗せて、歌えるか歌えないかギリギリのキーで、喚くような曲ばかり作った。
そんな曲ばかり演奏していたのに、カッコいい、と言ってくれる人が少し出来た。今日のライブ良かったよ、と言ってくれる人が出来た。企画ライブにぜひ出てください、と言ってくれる人が出来た。少し音楽が楽しくなった。
最初は自分を救いたかっただけなのに、誰かに楽しんで欲しいと思った。
そしてバンドを組んでから約3年、定期的な活動を止めてから約2年。1年ぶりで、そして最後のライブ。何人かが「あの曲やるんでしょ」「あの曲聴きたい」って言ってくれた。下手な演奏に乗って、沢山の人が最前で暴れてくれた。
別に長年の活動の中で満を辞して企画したワンマンライブとかでなく、大学時代に所属していた軽音サークルの、内輪の、ほんの小さなライブだったけれど、こんなに眩しいことが、ありふれた暮らしの中にあり得るだろうか。

 

音楽が無いと生きていけない、音楽に救われた。そんなドラマチックな経験は、ぼくには無い。音楽が無くたって何だかんだ生きていただろうし、音楽よりマンガの方が好きだし詳しいとも思う。でも、もしかしたら。ぼくも音楽に救われたと言っていいのかも知れない。音楽をやっていて、良いことが沢山あった。良い出会いも沢山あった。有るに決まっていたし、出会うに決まっていたのかも知れない。でも、この程度のことを、人は奇跡と呼ぶのかも知れないと思う。本当にありがとうございました。