「大森靖子」を神様だなんて言わないで、君だって特別だよ

 
大森靖子さんの新曲、マジックミラーのPVが公開されましたね
その感想と共に、ぼくが大学を卒業する際に書いた卒業論文大森靖子論』が、界隈で地味〜〜〜に話題になっているようなので、ここでぼくと大森靖子さんとの出会いと、論文に込めた想いを記す
 
まず卒業論文のテーマに大森靖子さんを設定した理由、もちろん好きなもので論文を書いた方が楽しそうだという安易な目論見はあったものの、でもそれを除いたとしても、大森靖子さんの存在は今のJポップシーンにおいてひとつの大きなキーになっているとぼくは考えた
学問として研究し、一つの形にアウトプットすることに価値はあるはずだと思った
 
ぼくと大森靖子さんとの出会いは2013年4月11日、北海道は札幌市、歴史のある地下の小さなライブハウスだった
ツイッターのタイムラインを眺めていたぼくの目に@natalie_muの「大森靖子1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」」というつぶやきが飛び込んできた、すごいタイトルだなと思った、とりあえずYouTubeを観てみた、不思議と何度も再生してしまった、あとはAmazonでCDを買ってもよかったんだけど、「@YouTubeさんから 私の全部を分かった気になってライブに来ないね」と歌われてしまったので、ライブに行ってみよう、当時ぼくもバンドをやっていたので、CDも直接買われた方が嬉しいはずだ、ライブ会場で直接買うまでガマンしようと思って、ライブに行った
 
実際ライブを初めて観た時の衝撃は今でも忘れられない
 
小さなライブハウスだ、すぐ手の届きそうなところに人間なはずがないほど美しい生き物がいる、ライブが始まって何時間経ったのかわからない、たぶん靖子さんが札幌に来たのは初めてで、ワンマンとかでもなんでもない普通のブッキングライブだったはずなんだけど、30〜45分よりもずっと長く感じた、すごい曲数やってた気がするから、もしかしたらほんとに長くやってたのかもしれないけどね
CD1枚買えればいいや、くらいの気持ちでいたから2000円しか持ってなくて、偶然ライブ会場にいた友達のお姉さんにお金を借りて、物販に3回並んだ、全部買った、靖子さんに「直接買いたくて、CD買うの今日まで我慢してたんですよ!」と伝えた、そもそもライブに行く気もそんなに無かったくせに調子のいいことをほざいた、そんでもってその時の靖子さんの「は・・・?あ、ありがとう・・・(何言ってんだこいつ)」って顔も忘れられない
 
それからのことはあんまりよく覚えていない
いつからこんなに好きになったのか、キッカケはなんだったのか、わからないけれど、ブログかな、インタビューかな
靖子さんが「売れたい」と言っていた
ぼくは正直思った「売れ線じゃないし、きっと売れないだろうな」
でも結果として、ぼくのくだらない予想なんか圧倒的なまでに覆して、あっという間にメジャーデビュー、すっかり時の人となった
 
靖子さんはメジャーに行ったことを「仕事だ」と言っている
自分というおかしな人間がメジャーシーンで売れることで、もっと面白い人が普通に、生きやすい世の中にすることが、メジャーミュージシャンである自分の仕事だと言っていた
ぼくはロックスターがロックスターであることを「仕事だ」なんて言う人を今まで見たことがなかった(単にぼくが無知なだけの可能性もあるけど)
 
大森靖子さんは感情を隠さない、優しさも喜びも傷も悲しみも怒りも、意識的に隠さない
それについては「週刊アスキー」の「ルールを目的にしない創造的な日本へ」という記事で述べられている
大森靖子さんは神様なんかではない
いつだってぼくたちと同じ立ち位置で、同じ等身大の人間として、喜んだり悲しんだり怒ったり、傷つきながら、ぼくたちに奇跡を示してきた、だから美しい、美しすぎる
ロックスターだって、アイドルだって、いつもぼくらの手の届かないステージでぼくたちに夢を魅せてきた、でも大森靖子さんはぼくたちと同じステージで、同じ目線で一緒にゆめを見てきた
 
永遠なんてないよ、だって死ぬじゃん
大森靖子さんの前で、ぼくはただの一ファンだから、靖子さんに大きな永遠をあげることはできないけれど、せめてこの身体ひとつ程度の永遠はあげられるように、死ぬまで一生大好きでいようと思った、そしてその「大森靖子」という存在の魅力をできるだけキッチリと、論旨の整った、「論文」という社会的権威のある形で表してみたいと、そう思ったのだった
 
そんな大森靖子さんの新曲「マジックミラー」
壮大なストリングスの中に、アコースティックギターの掻き毟るような音色が尾を引く。それはまるでこの広大な音楽の世界で、一人で戦ってきたかつての靖子さんの姿のよう。
そしてAメロ。アコースティックギターとピアノの伴奏に、我が子を抱きしめる母親のような優しいメロディ。やがてエレキギターとエレキベースが加わり、ドラムと打ち込みが加わる。曲全体として、あくまでアコースティックサウンドと歌を中心に、あくまでそれを殺さないようにバンドサウンドが包み、打ち込みサウンドが添えられている。さらに曲中にはかつて「音楽を捨てよ、そして音楽へ」で、「ミッドナイト清純異性交遊」の間奏で見られたようなサンプリングノイズが挿入される。
 
あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ
 
ラストのサビで靖子さんはそう歌う。
インディーズ時代から一人で戦ってきた靖子さんが、自分の力で未来を切り開き、ファンを味方につけ、信頼できる仲間を見つけ、メジャーアーティストになりあがった、その意味をストレートに歌詞に込めて歌う。
ちなみに曲中には「絶対安全ドラッグ」という歌詞があり、これは本人の楽曲「音楽を捨てよ、そして音楽へ」の歌詞「脱法ハーブ」のセルフ・オマージュであることも想像がつく。さらに楽曲の最後には、靖子さんの心を曝け出した最初期楽曲「PINK」の一節が挿入され、カットアウトする。
この楽曲は、歌詞、曲構成、サウンドアレンジ全てが、ここまで積み上げてきた人間芸術「大森靖子」の総集編のような楽曲だ。楽曲アレンジを2ndアルバム『絶対少女』の頃から担当し、靖子さんのことをよく知る直枝政広さん(カーネーション)が担当していることからも頷ける。
愛、夢、希望、悲しみ、絶望、道重さゆみ、ピンク色、ファン、ブログ、結婚、妊娠、幸福。ブログやインタビュー、ライブで晒されてきた「大森靖子」の人生全てが、この楽曲の魅力に深い彩りを加えている。
 

ブログを消してもSNS消しても痛みは消えないよね、君の幸せも悲しみも痛みも全部、全部全部本当にあったことで、消えてくれないよね、でも大森靖子さんは君が蹴散らしたそんなブサイクでボロボロのLIFEを掬い上げてくれる、許してくれる、抱きしめてくれる、君の感情は全部正しいし、君の好きなことが君にしかできないことだし、ぼくだって特別だし、君だって特別だよ、それを忘れちゃいけない